私の著書『超一流のクレーム対応』を出版したのが2017年。
あれから、もうすぐ10年になります。
この10年間で、私たちの仕事のやり方は大きく変わりました。
オンライン会議、チャット、セルフレジ、モバイルオーダー。
そして今では、生成AIを使えば、メールの返信も文章作成も、驚くほど短い時間でできるようになりました。
便利になりました。
仕事も速くなりました。
私自身もAIを活用しています。
人手不足が深刻になるなか、限られた人数で仕事をするために、業務を効率化することはとても大切だと思っています。
でも、ひとつ気になることがあります。
仕事だけではなく、「人」に対してまで効率化していないでしょうか。
最近は、お客様自身に操作してもらう場面が増えました。
注文はタブレット。
予約や変更はWEBから。
問い合わせはチャット。
会計はセルフレジ。
便利になった反面、
「聞きたいことがあるのに、人につながらない」
「どこに問い合わせればいいのかわからない」
「困っているのに、自分で調べてくださいと言われているような気がする」
そんな不満も生まれています。
さらに、人が対応している場面でも、
「早く終わらせたい」
「次のお客様を対応しなければ」
「決められた時間内に処理しなければ」
という気持ちが強くなれば、お客様との会話まで「さばく」「こなす」仕事になってしまいます。
仕事としては、間違ったことをしているわけではありません。
でも、お客様からすると、
「なんだか、右から左にさばかれたな……」
と感じてしまう。
実は、10年経っても何も変わらないことがあります。
お客様は、
「嫌な気持ちになりたくない」「ガッカリしたくない」
そもそも「クレームなんて言いたくない」のです。
今も昔も、不満があっても必ずしもその場で怒ってくれるとは限りません。
何も言わずに帰る。
次から、その会社やお店を使わなくなる。
そしてSNSや口コミサイトに、「対応が冷たかった」「もう利用しません」と書き込む。
会社側、お店側は、
「今日はクレームもなく、無事に仕事が終わった!」と思っている。
ところが、実際にはお客様を一人失っている。
これが怖いのです。
私は、クレームは「期待を裏切られたとき」に生まれると考えています。
商品やサービスへの期待だけではありません。
「ちゃんと話を聴いてくれると思っていた」
「困っているのだから、少しは親身になってくれると思っていた」
「一人のお客様として、大切に扱ってくれると思っていた」
そんな小さな期待が裏切られたときにも、不満は生まれます。
だから私は、仕事を効率化することには大賛成です。
AIに任せられる仕事は、どんどん任せればいい。
無駄な作業も減らせばいい。
ただし、
仕事は効率化しても、人に対してまで効率化してはいけない。
ここは間違えてはいけないと思っています。
自分の仕事を早く終わらせることばかり考えている。
お客様を「一人の人」ではなく「売上」や「件数」として見ている。
そんな仕事を続けていると、少しずつお客様の不満がたまっていきます。
その結果、クレームが増える。悪い口コミが増える。その対応に現場の時間を取られる。
早く処理しようとした対応が、さらに相手を怒らせ、本来は正当なクレームだったものまで悪質化させてしまう。
現場スタッフが疲弊する。そして、人が辞める。
効率化したつもりが、かえって仕事を増やしてしまうのです。
では、お客様の不満を大きなクレームにしない会社やお店は何が違うのでしょうか。
私は、とてもシンプルだと思っています。
「目の前の人を笑顔にしよう」としている。
相手の話を聴く。困っていることを理解する。
できないことがあれば、できることを探して提案する。
たったそれだけでも、
「ちゃんと自分に向き合ってくれた」と感じてもらうことができます。
AIが進化し、仕事の効率化がさらに進む時代だからこそ、
私はこれから、「人にしかできない仕事」の価値がもっと高くなると思っています。
お客様の感情を理解する。
困っている人に寄り添う。
そして、目の前の人を笑顔にする。
これは、10年前も今も変わりません。
いや、
効率化が進んだ今だからこそ、10年前より大切になったのかもしれません。
この10年間で、仕事のやり方は大きく変わりました。
でも、人と向き合うという仕事の本質は変わっていない。
仕事は効率化する。
でも、人にはしっかり向き合う。
これも、これからの時代に特に必要なことだと、私は考えています。
